追記【2024/9/13】
2024年9月12日、Unity公式よりRuntime Feeを撤回する旨が発表され、ゲームのインストール数に応じた課金は行わない方針に戻すということに決定されました。
サブスクリプションの料金設定に若干の変化があるようですが、これまで通り多くの個人ゲーム開発者にとって使いやすいプランに落ち着いたと思われます。
ゲーム開発者にとって重要なログとして、本記事はこれからも残しておきたいと思います。
ここからの先の内容は2023年10月に書いた記事です。 最新の状況とは異なることが多く含まれていますのでご了承ください。
はじめに
こんにちは。最近なんだか忙しく、観たい映画や遊びたいゲームに手を出せずにいましたが、ようやくザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービーを観られて満足しているゆーたろです。
この記事を見ている皆さんは、最近ゲーム業界がゲームエンジンUnityの炎上騒動でざわついていることをご存じでしょうか?
多くのゲーム開発者が利用するUnityの料金改定を巡り、世界中のゲーム開発者が激論を交わすきっかけとなった事件で、ゲーム業界に激震が走った出来事でもあります。
今回はゲーム開発に特化したマンツーマン講座「ウィザーディア」を運営し、10年以上Unityを使ったゲーム開発関連業務に関わっている私が、Unity炎上と個人ゲーム開発の今後について個人的に思うことをお話したいと思います。
炎上のきっかけ
事の発端は2023年9月13日。
Unityの開発・販売元であるUnity Technologies社は料金改定の発表を行いました。 その内容は以下のようなものでした。
- Unity Plusプランを廃止します
- 一部ゲームに対しインストール数に応じたUnity Runtime料金の発生
一部ゲームに対しインストール数に応じたUnity Runtime料金の発生――――
Unityはかつて買い切りの料金プランから、無料&サブスクリプションの料金体系に移行した歴史があります。 そして2024年、サブスクの料金体系+開発したゲームのインストール数による課金を行うと宣言した形になります。
この料金改定について、私の会社にもメールで案内が届いていました。
私の会社はとても小規模でUnity Plusのバージョンを使っており、届いたメールの件名は「Unity Plus プラン廃止のご案内」でした。
「今後はUnity Proを契約する必要があるのかな」「小規模なインディースタジオがUnity Proを複数契約するのはしんどそうだ」などと懸念を抱きながらメールを開き、内容をよく見た私はもっと大変なことに気が付いてしまいました。
以下はそのメールの一部です。
「注意:」の後ろ、さらっとヤバいこと書いてない!?
そして詳細はブログを読めと書いてあります。 アクセスすると次のような表がありました。
注:こちらの料金表は炎上騒動により、2023年10月1日現在、内容は変更されています
おそらく多くの開発者が私と同じ道筋でUnityの新たな料金プランを知ったのではないかと思います。
そして世界中の多くの開発者の反感を買ってしまったのです。
それもそのはず。 これは個人ゲーム開発者の作ったゲームがバズったとき、数千万円の請求書が届いてしまう可能性を持つインディクリエイター殺しの料金プランだったのです。
何がまずかったのか?
何故Unityは炎上騒動を巻き起こしてしまったのでしょうか?
Unityの対応でまずかった点は2つあります。
- 個人開発者に優しくない料金プランだった
- 告知をせず新たな課金方式を公式発表した
1つずつお話をしていきます。
個人開発者に優しくない料金プランだった
Unityを使う人の中には個人ゲームクリエイターが多く含まれます。
仮にあなたが一人のインディゲームクリエイターだとして、一つこんなストーリーを想像してみてください。
あなたが初めてリリースした無料ゲームは奇跡的な大成功を収め、ゲームはリリース直後から大バズり!
月に20万ダウンロードのペースであっという間に5か月で100万ダウンロードを達成! ゲームは無料ですが広告を実装しており、この時点で収益は20万ドルを達成していました。
その後勢いは収まってしまったものの、少しずつダウンロードが伸び、1年間で130万ダウンロードを獲得します。 プレイヤー人口が減って収益の伸びも鈍化したものの、1年間で合わせて25万ドルの収益を得ました。 成果としてはかなりのもので、この結果はクリエイターとしては涙が出るほど嬉しいに違いありません。
夢のある話ですよね?
やがてUnity Runtime Feeの請求書が届きます。 さあ、どうなるでしょうか。
しきい値を満たした5か月目以降、30万インストール分がRuntime Feeの対象となります。 1件あたり0.2ドルの課金が行われるため、30万×0.2ドル=6万ドルです。 課金請求は日本円でおよそ900万円。
合計25万ドルの収益は日本円でおよそ3,700万円ですので、900万円マイナスして2,800万円儲かった!と思ってしまうかもしれません。
しかし最初の20万ドルまたは20万ダウンロード分は課金対象となっていません。 よって、最初の5か月を除いて考える必要があります。
その後の7か月の30万ダウンロードに対し5万ドルの収益を得て、それに対しRuntime Feeが6万ドルの課金。
つまり、1万ドル=約150万円の赤字です。
しかもこの赤字は一時的なものではなく、ゲームを公開している限り永遠に続くのです。 何のためにゲームを作ったのか?と思ってしまうかもしれません。 皆に楽しんでもらいたくてリリースしたゲームなのに、赤字でサービス終了させてしまうのは、ゲーム開発者にとって耐えがたく悲しいものです。
これはすでに成功を収めている個人ゲーム開発者にとって、到底受け入れられるものではなかったのです。 勿論、これから成功を収める未来の個人ゲーム開発者にとっても、まったく優しくない料金プランだったといえます。
告知をせず新たな課金方式を公式発表した
特に良くなかったのは、このような料金体系になる可能性をこれまで公式に発表してこなかったことでしょう。
Unityがこの情報を発表したのは日本時間で9月13日。
Unity Runtime Feeの開始は2024年1月なので、3か月以上前に告知しているから問題ないのでは?と思うかもしれません。
しかし、Unityはこれまで個人ゲーム開発者に対してPersonal Planを無料で提供していました。
これはUnityが掲げる「ゲーム開発の民主化」というポリシーを体現するものであり、今後も存続するものと思われていました。
しかし、新たに発表されたUnity Runtime Feeの影響範囲がPersonal Planにも及んでいたことでこの考えが脆くも崩れ去り、大炎上を巻き起こすことになったわけです。
これほど大きな料金体系の変更は利用者にとって受け入れがたいものになる可能性があり、公式決定の前に何らかの示唆をすべきだったのではないでしょうか。
これにより利用者の中で議論が交わされ、Unity Technologies社側もこれほどの大反発を受けることなくユーザーの意見を反映することができたのではないかと思います。
例えば、2023年10月時点でX(元Twitter)は無料で使用できるサービスですが、9月19日にイーロン・マスク氏は全面有料化を示唆した発言をしています。
これによってX(元Twitter)のユーザーは課金してもサービスを使いたいかどうか、といった大激論に発展しているわけです。
X社のこの計画の良し悪しはさておき、大幅な料金システムの改定に当たっては、Unityにも本来このような議論をするステップが必要だったのではないか、と私は思います。
Unityのその後の対応
Unity運営は世界中から非難を浴び、考えを改めました。
突然の料金改定への謝罪と、ユーザーの意見を受け入れることを表明し、料金改定の内容も見直しを図ったのです。
実際にUnity Technologies社は短い期間ではありましたが様々なユーザーと議論を交わし、料金改定プランを修正していきました。
そして9月23日、修正された料金改定プランが発表されました。
Runtime Feeの適用範囲変更
まず、大炎上の原因となったRuntime Feeは、Unity Personal Planに適用されないことになりました。
つまり今までと同様、個人ゲーム開発者はPersonal Planを使う限りは完全無料で自分の作品を世に送り出すことができます。
Unity Plusは廃止。しかし…
Unity Plusの廃止は変わらないものの、むしろPersonal Planの利用をするための条件が緩和されました。
これまで年間10万ドルの収益を超える場合はPersonalは使えなかったのですが、Plusの廃止によって年間20万ドルの収益までPersonalを利用できることになりました。
Runtime Feeの課金条件を緩和
当初発表されていたRuntime Feeの課金条件として、インストール1件につき0.01~0.2ドルというものがありました。
インストール1件あたりという条件がリセマラを前提としたゲームにおいて非常に深刻な要素でした。
しかし「インストール1件につき」から「初回エンゲージメント」に条件が変更され、実際にゲームを遊んだリアルなユーザー数をもとにRuntime Feeを支払うことになったのです。
さらに、Runtime Feeの発動条件となるしきい値も収益100万ドル以上かつ100万エンゲージメント以上のゲームのみとなっています。
これらの対応により、炎上はほぼ鎮火したのではないかと思われます。
個人ゲーム開発者の今後
正直な話をしますと、私は今回の騒動で個人ゲーム開発者の選択肢が1つ消滅するかもしれないと懸念を抱いていました。
しかしUnityユーザーの強い反発と、Unity Technologies社の歩み寄りの結果、むしろUnityは個人ゲーム開発者にとって最良の選択肢の1つであり続けていると感じられます。
その大きな理由は、Personalプランの条件緩和です。 年間収益20万ドルまで無料で使えるというのは非常に魅力的です。
勿論、開発するゲームによって様々なゲームエンジン、ミドルウェアを使うことが想定できますので、その選択肢は様々であると思います。
「失った信用は取り戻せない」との厳しい意見もありますが、私としてはゲーム開発の選択肢としてまだUnityが健在であり続けてくれそうな点に、少し安堵した形ではあります。
今回それは数多くのユーザーの声によって守られました。 Unityも今後はユーザーの意見に耳を傾ける機会が増えていくのではないでしょうか。(そうであってほしい)
最も大切なのは、納得のいかないことに臆さず声を上げられる勇気なのかもしれません。